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アメリカ・シアトル市消防局編
国際消防情報協会 企画調査員 神谷 早苗

歴史・習慣

北アメリカの西海岸北部ワシントン州シアトル市は、別名エメラルド・シティと呼ばれ、アメリカでは誰もがいつかは住んでみたいあこがれの都市として有名である。実際、行ってみると噂どおり東海岸のニューヨーク市とはくらべものにならないほど、クリーンでセイフティな街である。

シアトル・センターのスペース・ニードル展望台に登ると、東にキャスケード山脈、西にオリンピック山脈が豊かな緑を育み、3方向を海と湖に囲まれ、自然との調和がとれたオシャレな近代都市であることがわかる。そんなシアトルも実は1889年に大火災があり、ダウン・タウンのほとんどが焼失してしまった経験を持つ。そのころは道路面が低すぎ、大雨や海の満潮を迎えると町中が洪水状態となる問題を抱えていた。

大火に至ったのは、それぞれの消火栓の水圧が低すぎて役に立たなかったことが大きな原因であった。大火後、都市計画によりすべての道路がそれまでの位置から10フィート(3、3メートル)ずつ上げられることになった。ところが、道路の両脇に建っているレンガ造りや石造りの建物に問題が起きてしまった。どういうことかというと、建物の1階部分が道路の下に埋まってしまったため、道を挟んだ坂の上にある向かいのビルの1階へ行くのに、まず2階まで階段を上り、通りを渡り、それからまた1階まで階段を降りなければならず、非常に面倒なことになってしまった。また、道路の脇から下の歩道に転落する人や馬も後を絶たず、路面とビルの間に手すりと蓋をするようになった。その結果、住民は建物の2階から出入りするようになり、各建物の1階は次第に「アンダー・グラウンド・ワールド(地下世界)」になっていった。今では、この地下世界を90分掛けて探訪するツアーもある。

さて、現在シアトル市消防局は「メディック1」システム、「メディック2」システムが世界中に知れ渡っている。シアトル市消防局の消防士のほとんどが、EMT-D以上(パラメディックの一ランク下)の資格を持ち、救急隊員は70%がパラメディックの資格を持つという非常に高度な組織体制を持っているためである。安全都市と言われるのはこのシステムからも想像が付くと思うが、今回さらに詳しく紹介する。

消防事情について

メディック1システムについて

もう御存知の方も多く、耳慣れた言葉かもしれないが、メディック1システムとは、シアトル市が25年間かけて築き上げた安全都市構想の中の最も大きな成果であると言える。どのようなシステムかというと、人口55万人の都市マップに各消防署を中心として、コンパスで3分以内に到着できる範囲を円で囲んだ安全層を作り、まちのどこから指令を受けてもBLS(ベーシック・ライフ・サポート)いわゆる日本で言う救急標準課程以上の技術を持った消防隊員が、指令から平均3分半以内にポンプ車やはしご車で現場に到着するシステムである。また、同時に指令された救急隊が約6分以内に到着するというものである。

もう少し詳細を紹介すると911通報があると警察指令センターにまず通報される。警察指令センターは消防関係事案(火災・救急)であると消防指令センターに電話を転送する。消防指令センターは現場直近の消防署に出動指令を出し、エイド・カーと呼ばれる消防隊員で組織した救急車とポンプ車やはしご車などその日の担当隊に出動要請をする。同時に、パラメディックを載せたメディック・ユニットと呼ぶ救急車を出動させる。

ようするに、3つのちがう車両が同時出動するわけである。つぎに、大きく分けて3段階の患者搬送手段がある。たとえば、軽傷の場合、消防車両が最先着し、患者生命に即危険のあるような状態ではないと判断した場合、メディック・ユニットはその場で引き返させ、エイド・カーで搬送するか、かわりに有料の民間救急隊($130〜140)を要請し、患者搬送を依頼する。歯痛や擦過傷など簡単な内容の要請はほとんど民間救急隊に依頼している。

中等傷の場合はエイド・カーで搬送するが、重傷に近い場合はパラメディックの到着を待ち、高度救急処置を受ける場合もある。生命に関わる重傷の場合は、メディック・カー到着まで消防隊員やエイド・カーの隊員が出来る限り(半除細動器使用まで)の救命処置を行い、メディック・カーに引き渡した後はパラメディックの高度救急救命処置を受けながら搬送するというシステムである。

メディック2システムについて

このシステムによってシアトル市民の60%がCPR の講習を受講しており、メディック2も救命率を高めている大きな要素と言える。このシステムは、州によって名前が違うが、シアトルに限らず、アメリカのほとんどの州で実施されており、簡単に言うと市民に対してパラメディックまたはEMTの隊員が心肺蘇生法や応急処置の講習を行うシステムである。

心肺蘇生法がなぜこれほどまでに必要性を求められており、ポピュラーかというと、アメリカン・ハート・アソシエーション(アメリカ心臓病協会)やアメリカ赤十字社が、テレビのコマーシャルで急性心筋梗塞、心タンポナーデ、脳梗塞、糖尿病性昏睡、肥満による上気道閉塞などが“公衆の場で発生した件数”を発表したり、その予防を頻繁に呼びかけているのと、屋外作業者(タクシードライバー、道路工事監督者、ビル工事監督者)、業務上CPRを行う可能性が高い者(消防士、救急隊員、海上保安官、警察官、学校教師、エアロビクス・インストラクター、パーソナル・トレーナー、スクーバ・ダイバー、看護婦、医師、針灸士、マッサージ士)などの職業に従事する人たちに条例で毎年講習を受ける必要性を義務ずけしているためである。

また、就職採用時にCPRの講習修了証の提示を求められるなど、車の運転免許証並の効力を持たせていることも見逃せない。また、テレビ番組“RESCUE 911”“Emergency”“Doctor” など消防隊員や救急隊員が救命処置を行うシーンを毎日どこかのチャンネルで放映しており、日常生活に置いて身近で本当に起こった出来事を紹介し、毎回、各番組終了後にCPR受講を勧めている。私もアメリカン・ハート・アソシエーションの講習を受けたが、講習は5時間コースで組まれており、最初の2時間は“心臓病にならないための日常生活上の予防法”が紹介され、中2時間が実施トレーニング、最後の1時間が筆記と実技テストとなっており、なかには試験に通らない人もいるが、その人達のために、さらに、詳しく追加講習もしてくれる。

講習内容であるが、最初の2時間の内容は栄養学(肉、たまご、乳製品などを控えるように指導)、アルコールまたタバコの害について、ダイエット法、テンパー(怒りやすい人)防止のための気持ちのコントロール法などおもしろおかしく紹介される。指導者のなかには、菜食主義者で塩分も取らず、化学調味料も一切取らず、サラダを食べる前に野菜を1時間以上水に浸すなど、体に摂取するモノすべてに細心の気を払い、車の排気ガスをなるべく吸わないようにするため、用のない時には外に出ずに家にこもり、タバコも酒も飲まず、完全主義的に心臓病や肥満を防止するように指導している人もいたが、“そこまでやったら人生何の楽しみもない!!”感じを受けた。

中2時間の実技については、911通報要領、ハイムリック法、ポケットマスクを使った人工呼吸法、自動除細動器の簡単な使用法が紹介される。近年ほとんどの州で感染防止のためマウス・ツー・マウスよりもポケットマスクか1方向弁付きビニールシートを使用するように指導しており、医療器具販売業者の中には、ラブ・パックと言う製品名で、コンドームと1方向弁付きビニールシートをコンパクトな可愛い入れ物におさめて誰でも手軽に持ち歩けるようにして、販売しているところもある。このアイデアは日本でも当たるのではないかと思った。

さて、メディック2とは別に赤十字社が行う講習の種類についてだが、市民向けとプロ向け(前述の業務上CPRを行う可能性が高い者)では講習内容が異なる。プロ向けは、主に高濃度酸素を併用するCPR2種類を重点的に訓練する。ひとつは酸素吸入弁付きポケットマスクによる呼気吹き込み人工呼吸法、もう一つは酸素リザーバーバックを取り付けたバックマスクによる人工呼吸法である。それと、ツーマンCPRいわゆる2人で行う方法である。また、1次観察のテクニックも紹介され、かなり高度な内容のものであった。

メディック1、メディック2ともに世界的に有名で、世界中の消防職員が視察研修に訪れ、シアトルのシステムを何とか自分のところに取り入れようと努力しているが、都市が大きければ大きいほどシアトル消防局の体制をコピーすることは困難であるといった意見が良く聞かれる。シアトルは被災後の都市計画に成功したことにより、メディックシステムを確立できたと言ってもよいと思う。大都市ニューヨークでは、現場に着くことさえ困難である事が多い。いまや都市全体が手の付けようがないほど成長し、逆に市の予算は毎年下がっているため、肥満型ケオス(混沌)都市になってしまっている。ニューヨークに限らず、アメリカの大都市のほとんどは、誰もまとめきれないほどの社会状態にある。

民間救急組織“シェパード”について

前段で民間救急隊との連携について触れたが、“シェパード”とは、アメリカ4州に支部を持つ、大規模な民間救急組織である。多くは都市部の大病院と契約し、病院かかりつけの患者さんを専門に搬送する救急隊であったが、最近では隊員の中にもパラメディッククラスの資格を持つ隊員もたくさんいる。日本の警備保障会社セコムからも出張社員がシアトルでパラメディックの資格を取り、2年間平均で現地に滞在し活躍している。この組織の特徴は、“簡単な要請にも安全、丁寧に喜んで応じます!!”という消防側の“緊急性のあるときにだけ通報せよ”とはまったく逆転の発想を謳い文句にしている。

日本では寝台車タクシーなどが、これに似たような形としてはあるが、緊急走行ならびに消防側からの積極的な要請は少なく、知っている人も少ない。シアトル市消防局のメディック・ワン隊長のドナルド・シャープ氏にこの組織について聞いてみたところ、いまや消防の右腕的存在で活躍してもらっているとのことであったが、問題点として、市民の目から見た場合、シアトル市消防局の救急隊も、民間救急組織シェパードの救急隊も全くの同じ救急隊に映るため、サービスや有料制についての市民からの“勘違いによる問い合わせ、抗議の電話”の対応に困っているとのことであった。“シアトル市消防局が25年掛けて築き上げたメディック・ワンシステムと勘違いされては困る。”と語っていた。

さらに、“余計な心配かもしれないが、この先、民間救急組織が消防の救急隊に出来ないような幅の広いサービスを売り物に成長されてもらっては、消防組織に属する救急隊の必要性が徐々に失われていき、今市議会で消防側に対して権力を持つ市民党の反対派である政党からつつかれて、予算の削減要素にもつながり、最終的には市民に対する本来の救急技術の低下につながるのではないか?”と懸念していた。

ドナルド氏とは、消防以外の生活事情についても話したが、“何が起こるかわからない大変な世の中ですが、ものごとは少しずつしか変化できないように、自然物理的に成り立っているのが救いです。今までの築き上げたシステムに自信を持って、これからさらに継続し、それを力としてこれからの社会に対応していこうと思っています。”と自信と勇気に満ちあふれた笑顔で答えてくれた。

おわりに

今私はアメリカ北部コネチカット州の冬の厳寒から開放され、1年中暖かくサンゴ礁の海に囲まれた平和なハワイ州マウイ島に移り住んだが、こちらのテレビ放送で、日本で起こっているオウム真理教事件などを見ていると、以前スペインのマドリッド消防局に伺ったときに取材したテロ事件、スイスのベルン消防局危険物課長ハウプトマン氏の、ヨーロッパで問題になっているマインドコントロールを強制する宗教団体の話などを思い出した。 日本に限らずアメリカでもオクラホマでの爆弾テロ事件など、現在世界中で、これらの予想のつかない事件が頻発しており、これらの危険性が存在する地域で働く消防職員の方々のご苦労はたいへんなものだろうと心の痛む思いであるとともに、何か情報収集面でお手伝いできることが出来たらと思っている。これらのテロ事件については予防法などを作ることが困難であり、危険性を持つ団体名がわかれば別であるが、何か社会的問題が起こらなければ、どの行政機関もどう対処しようもないのが現状である。アメリカの場合、スイス編で紹介したが、アメリカ・シチズンズ・フリーダム・ファウンデーションやカルト・アウエアネス・ネットワークなどから社会的危険性を持つ各団体ごとの危険性の評価、思想の簡略説明、団体の目的、青少年への被害指数などの情報が収集できるが、これらの団体の活動規制についても“黒と言えば白”“白と言えば黒”という人々や団体も多く、非常に社会秩序を守る困難性を感じる。 もちろん、こういう宗教団体関連事件や思想活動テロ関連事件は今の時代に始まった事ではなく、何千年も昔からそれなりにどの社会においても起こってはいたが、近年は特に化学兵器による短時間大量殺人の危険性が高く、それとは逆に安全を守る行政機関側の予算の問題からおこる様々な経済的なしわ寄せが、世界の各地でつぎつぎに起こる大きな都市型災害に対しての消防機関の対応をさらに厳しくしている。

今回シアトル市消防局を訪れるきっかけとなったのは、新潟市消防局消防司令補二村清明氏の視察研修補佐として、研修のお手伝いをさせていただいたためであったが、二村司令補と白衣を着て、メディック・ワンの救急車に搭乗し、現場に出動したり、一緒に寝食を共にしながらアメリカから見た日本における消防のこれからについてや、アメリカの消防事情についてなど、また、消防事情以外の日常生活の違いや社会通念の違いなどをシアトルハーバー近くの中華料理屋でビールを飲み、また食事をしながら楽しくお話しできたことがすごく良い思い出として心に残っている。二村氏に紙面を借りてあらためてお礼を申し上げるとともに今後のご活躍をお祈りさせていただきたい。